祥子ちゃん、と名前を呼ばれた。
振り返ってみると、もちろん真くんだった。
「鶴岡八幡宮のほうに行かないか? あっちにさ、おみくじってあるだろ。真姫がおみくじ引きたいらしくって」
真くんの隣にいる妹の真姫ちゃんに視線を移すと、彼女は子供らしい笑みを浮かべて頷いた。
「わたしは構わないよ、別に」
真姫ちゃんの笑顔に釣られて、わたしも笑顔になる。
一人っ子のわたしにとって、兄弟がいるのはとても羨ましい。
みんなは「兄弟なんかいないほうがいいよ」というけれど、わたしは絶対にいたほうがいいと思う。あちらはあちらで一人っ子になりたくて、わたしはわたしで兄弟が欲しい。お互い、ないものをねだっている。あるからその大切さがわからないかもしれないけれど、なければその大切さに気付く。
ややこしく感じるが、それでも人間の心なんか厄介だ。
「それにしてもどうやって行く? 小町通りを通ってもいいけど、あそこは人が多いだろ。大通りを通るっていうルートもあるよ」
人が多いのはとても嫌だった。自分の周りにいるすべての人間が蛮人に見えてきてしまって仕方がないからだ。
神経過敏症のいかれたばか女に思われるかもしれないが、それでもどうしてもわたしにはそう見えてしまって詮方なかった。
けれど、どうしてだろうか。今日は気分が良くて、なんだか清清しい。まぶしいぐらいに日が照ってよく晴れているからかもしれない。
人込みに入っても排他的な気持ちになることはなさそうだった。
たまには、人込みもいいかもしれないと思うぐらいに。
どこからか湧き出してくる小町通り行きたいという願望が、ついにわたしの気持ちを動かした。
「小町通りを通ろう、真くん。人はたくさんいるけど、その分たくさんのお店があるし、真姫ちゃんだって楽しめるんじゃないかな?」
「こまちどおり、ってなにー?」
真姫ちゃんが無邪気に尋ねてくる。
「お煎餅とか、甘栗とか、クレープとかおいしいものを食べるお店がたくさんあるとこだよ。他にもちょっとしたアクセサリーのお店とかもあったかな」
腰を真姫ちゃんの身長にまで下ろして、わたしは丁寧に教えてあげた。
本当は自分が行きたいというのに、わたしはなんて卑怯なんだろう。
案の定、その話を聞いた真姫ちゃんは目をきらきらと輝かせて、隣りに立つ彼女の兄を見やった。
「お兄ちゃん、行こっ。あたし、こまちどおり行きたいっ。ねえ、お兄ちゃん行こうよ」
彼女は真くんの服の袖をぐいぐいと引っ張って、体を左右に揺らし、駄々をこねるようにお願いする。
しょうがないなー、と言って真くんは溜息をついた。
「ったく・・・・・・。祥子ちゃん、行こう」
「うんっ」
嬉しくて笑顔で縦に首を振ってしまった。
わたしは、先に進む多田兄妹の背中を追駆した。
振り返ってみると、もちろん真くんだった。
「鶴岡八幡宮のほうに行かないか? あっちにさ、おみくじってあるだろ。真姫がおみくじ引きたいらしくって」
真くんの隣にいる妹の真姫ちゃんに視線を移すと、彼女は子供らしい笑みを浮かべて頷いた。
「わたしは構わないよ、別に」
真姫ちゃんの笑顔に釣られて、わたしも笑顔になる。
一人っ子のわたしにとって、兄弟がいるのはとても羨ましい。
みんなは「兄弟なんかいないほうがいいよ」というけれど、わたしは絶対にいたほうがいいと思う。あちらはあちらで一人っ子になりたくて、わたしはわたしで兄弟が欲しい。お互い、ないものをねだっている。あるからその大切さがわからないかもしれないけれど、なければその大切さに気付く。
ややこしく感じるが、それでも人間の心なんか厄介だ。
「それにしてもどうやって行く? 小町通りを通ってもいいけど、あそこは人が多いだろ。大通りを通るっていうルートもあるよ」
人が多いのはとても嫌だった。自分の周りにいるすべての人間が蛮人に見えてきてしまって仕方がないからだ。
神経過敏症のいかれたばか女に思われるかもしれないが、それでもどうしてもわたしにはそう見えてしまって詮方なかった。
けれど、どうしてだろうか。今日は気分が良くて、なんだか清清しい。まぶしいぐらいに日が照ってよく晴れているからかもしれない。
人込みに入っても排他的な気持ちになることはなさそうだった。
たまには、人込みもいいかもしれないと思うぐらいに。
どこからか湧き出してくる小町通り行きたいという願望が、ついにわたしの気持ちを動かした。
「小町通りを通ろう、真くん。人はたくさんいるけど、その分たくさんのお店があるし、真姫ちゃんだって楽しめるんじゃないかな?」
「こまちどおり、ってなにー?」
真姫ちゃんが無邪気に尋ねてくる。
「お煎餅とか、甘栗とか、クレープとかおいしいものを食べるお店がたくさんあるとこだよ。他にもちょっとしたアクセサリーのお店とかもあったかな」
腰を真姫ちゃんの身長にまで下ろして、わたしは丁寧に教えてあげた。
本当は自分が行きたいというのに、わたしはなんて卑怯なんだろう。
案の定、その話を聞いた真姫ちゃんは目をきらきらと輝かせて、隣りに立つ彼女の兄を見やった。
「お兄ちゃん、行こっ。あたし、こまちどおり行きたいっ。ねえ、お兄ちゃん行こうよ」
彼女は真くんの服の袖をぐいぐいと引っ張って、体を左右に揺らし、駄々をこねるようにお願いする。
しょうがないなー、と言って真くんは溜息をついた。
「ったく・・・・・・。祥子ちゃん、行こう」
「うんっ」
嬉しくて笑顔で縦に首を振ってしまった。
わたしは、先に進む多田兄妹の背中を追駆した。
PR
この記事にコメントする
カウンター
カレンダー
06 | 2025/07 | 08 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | ||
6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 |
13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 |
20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 | 26 |
27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
プロフィール
HN:
稿 累華
年齢:
34
HP:
性別:
女性
誕生日:
1990/10/06
職業:
大学生
趣味:
読書・執筆作業・芸術鑑賞
自己紹介:
現在都内の大学に通う大学一年生。一年の時点では教養課程なので専攻はないけど、二年になったら心理学コースに進む予定。
英語はそれなりに読んだり聞いたりして理解できるけど、喋るのはあまり得意ではなかったり。第二外国語ではフランス語、第三外国語ではラテン語を学習中。
将来的には作家になりたいので、創作の肥やしにするために色んなものを聞いたり見たり読んだりして経験値を増やそうと日々奮闘してます。
くわしいプロフィールは下のURLから。
http://pr2.cgiboy.com/S/2401908
英語はそれなりに読んだり聞いたりして理解できるけど、喋るのはあまり得意ではなかったり。第二外国語ではフランス語、第三外国語ではラテン語を学習中。
将来的には作家になりたいので、創作の肥やしにするために色んなものを聞いたり見たり読んだりして経験値を増やそうと日々奮闘してます。
くわしいプロフィールは下のURLから。
http://pr2.cgiboy.com/S/2401908
最新トラックバック
ブログ内検索
フリーエリア